正弦定理の概要
正弦定理は、数学Iで登場する正弦 \(\sin\) を応用させて作られた公式です。
やや複雑な公式で、多くの人にとって挫折しやすいポイントとなっているので、こちらで紹介している証明の仕方や練習問題を参考に、しっかりと理解していきましょう。
正弦定理の公式
三角形ABCについて、点A, B, Cの内角をそれぞれA, B, Cとする。
そして、辺BCの長さをa、辺ACの長さをb、辺ABの長さをcとし、三角形ABCの外接円の半径をRとすると、
が成り立つ。
つまり、「三角形の辺を、その反対側の内角の正弦で割った値は、常に三角形の外接円の直径に等しい」と言うことができます。
正弦定理の証明
まずは\begin{aligned}\dfrac {a}{\sin A}=\dfrac {b}{\sin B}=\dfrac {c}{\sin C}\end{aligned}についての証明です。
CからABに下ろした垂線と、直線ABの交点をHとする。
三角形ACHについて、\(CH=b\sin A\cdots①\)
三角形BCHについて、\(CH=a\sin B\cdots②\)
①、②より \(b\sin A=a\sin B\)
\begin{aligned}∴ \frac{a}{\sin A} = \frac{b}{\sin B}\end{aligned}
あとは同様に考えて、\begin{aligned}\dfrac {a}{\sin A}=\dfrac {b}{\sin B}=\dfrac {c}{\sin C}\end{aligned}を導くことが出来ます。
この証明は、AまたはBが鈍角で、Hが辺AB上にない(三角形からはみ出てしまう)場合でも使えるということに注意しておきましょう。
次に、\begin{aligned}\dfrac {a}{\sin A}=2R\end{aligned}
についての証明です。この証明には、円周角の定理を使います。
[1]Aが鋭角の場合
外接円上に、\(BD=2R\)となるような点Dを定める。(BDは円の中心を通る)
この時、円周角の定理より、\(∠A=∠BDC\)
また、\(BD=2R\)なので、\(∠BCD=90^{\circ }\)
よって、\begin{aligned}\sin∠BDC=\frac{BC}{BD}=\frac{a}{2R}=\sin A\end{aligned}
ゆえに、\begin{aligned}\frac{a}{\sin A}=2R\end{aligned}
[2]Aが直角の場合
aが外接円の直径になるため、\(a=2R\)
\(A=90^{\circ }\)なので、\(\sin A=\sin90^{\circ }=1\)
したがって、\begin{aligned}\frac{a}{\sin A}=\frac{2R}{1}=2R\end{aligned}
[3]Aが鈍角の場合
外接円上に、\(BE=2R\)となるような点Eを定める。(BEは円の中心を通る)
四角形ABECは円に内接しているため、\(∠A+∠BEC=180^{\circ } \cdots①\)
また、\(BE=2R\)なので、\(∠BCE=90^{\circ }\)
したがって、$$\sin ∠BEC=\frac{BC}{BE}=\frac{a}{2R } \cdots②$$
①より、\(\sin ∠BEC=\sin (180^{\circ }-∠A)=\sin A\)
これと②とから、$$\sin A=\frac{a}{2R} $$
ゆえに$$\frac{a}{\sin A}=2R $$
正弦定理の使われ方
正弦定理は実際にどのような場面で使われるのでしょうか。実際に役に立つのは、以下のような場合です。
・少なくとも一つの内角とその反対側の辺の長さが分かっていて、その三角形の外接円の長さを求めたい時
・三角形の辺の長さは分かっているが、内角が分からない場合
このように、問題文で明らかになっている値で正弦定理を用いることで、その三角形の辺・角・外接円を知ることができます。
正弦定理の公式の覚え方
正弦定理の意味をよく理解する
正弦定理の公式はかなり長く、ただ闇雲に覚えようとしてもうまくいきません。
・A,B,Cといった記号が指し示しているものは何か
・公式自体がどういったことを言っているのか
ということを理解しながら覚えることが必要です。
至って基本的なことのように感じるかもしれませんが、これをスルーしていきなり暗記から始めても、訳が分からなくなってしまいます。
問題を解きながら覚えていくのが重要
公式を覚える時は、ただ眺めているだけではなく、ペンを動かして、実際にそれを使いながら学習していくのが効果的です。
基本的な問題を解いてみることで、「この公式がどういう意味を持っているのか」を初めて理解することができます。
さらに、問題によっては「\(a=2R\sin A\)」のように、変化球で正弦定理を使うことになります。
そのため、はじめに示した公式の形ばかりを覚えるのではなく、公式を様々な視点で学習することができるようになります。
正弦定理を使った例題
半径を求める問題、辺を求める問題、正弦を求める問題をそれぞれ用意したので、どの形できても答えられるようにしておきましょう。
(1)\(A=60^{\circ }\)、\(a= 5\) である三角形ABCの外接円の 半径\(R\) を求めよ。
【解答】
正弦定理の公式に当てはめて、$$\frac{5}{\sin 60^{\circ }}=2R$$
\(\sin 60^{\circ }=\frac{\sqrt{3}}{2}\)より、
$$R=\frac{5}{\sqrt{3}}=\frac{5\sqrt{3}}{3}$$
(2)\(A=75^{\circ }\)、\(B=60^{\circ }\)、\(b=6\) のとき、\(c\) を求めよ。
【解答】
\(C=180^{\circ }-A-B=45^{\circ }\)
正弦定理の公式により、$$\frac{b}{\sin B}=\frac{6}{\sin 60^{\circ }}=\frac{c}{\sin C}$$
\(\frac{6}{\sin 60^{\circ }}=4\sqrt{3}\)、\(\sin C=\sin 45^{\circ }=\frac{1}{\sqrt{2}}\)より、
$$c=\frac{4\sqrt{3}}{\sqrt{2}}=2\sqrt{6}$$
(3)\(A=45^{\circ }\)、\(a=4\)、\(b=6\) のとき、\(\sin B\) を求めよ。
【解答】
正弦定理の公式により、
$$\frac{4}{\sin 45^{\circ }}=\frac{6}{\sin B}$$
\(\frac{4}{\sin 45^{\circ }}=4\sqrt{2}\) より、
$$\sin B=\frac{6}{4\sqrt{2}}=\frac{3\sqrt{2}}{4}$$
まとめ
最初にお伝えした通り、正弦定理は多くの人がつまづきやすいポイントです。
しかし、実際は今までに学習した正弦や、幾何学の定理を応用してできたものに過ぎません。
ただ公式を丸暗記することに執着せず、出来るだけ「どうしてこのような公式が成り立つのか」ということに注目しながら、積極的に問題を解くことで公式を覚えていきましょう。