「力のモーメントって何?」「剛体のつり合いを解く時のコツって?」「モーメントでよくある勘違いは何?」
このような受験生の疑問を解決すべく、例題を通してわかりやすく解説します。
さらに、頻出の「転倒する直前の条件」系の応用問題も図解で丁寧に解説しています。
モーメントのエッセンスがつまった記事です!
力のモーメントとは?
物体に力を加えた時、回転したり、変形したりすることがあると思う。
回転はするが、変形はしない物体を剛体という。この単元では、剛体について取り扱う。
剛体を回転させる能力を表すのが、力のモーメントである。
力のモーメントが大きければ、回転させる能力が大きいことを意味する。
以下の図のように、点Oを軸に大きさ \(F\) の力で剛体を回転させる時の力のモーメント \(M\) は、次の式で定義される。
※物体を回転させる際に、力を変えずに(=\(F\)が一定)、回転軸からの距離を大きく(=\(L\)を大きく)すれば、回転させやすくなる(=\(M\)が大きくなる)。
\(L\)は、厳密に言うと、\(F\)の作用線までの距離である。
それについて、以下で説明する。
力の方向と”うで”は必ず垂直
たとえば、以下の図の場合。
点Oを軸に回転させる時、うでの長さ\(L\)は、\(F\)の作用線(点線)までの距離より、以下の赤線部分になる。(灰色部分ではない)
繰り返すと、うでの長さ\(L\)は、\(F\)の作用線までの距離である。
少し言い換えると、\(F\)と\(L\)は垂直になる。。
モーメントの”プラス”と”マイナス”
剛体を回転させる方向(基準の点から見て)が反時計回りのときは、モーメントは”プラス”とする。
逆に、回転させる方向(基準の点から見て)が時計回りのときは、モーメントは”マイナス”とする。
基本例題
解説:
力のモーメントの定義は、\(M=FL\)で、\(L\) は力の作用線までの距離であることに注意。
点Oの場合は、重力の作用線までの距離 \(L=l\) である。
また、点Oから見ると、反時計回りに回転させようとしているので、モーメントは”プラス”。
よって
\(M_{O}=F・L=mg・l\)
\( M_{O}=mgl\)・・答え
点Pの場合は、重力の作用線までの距離は、以下の赤矢印部分である。
よって、 作用線までの距離は\(L=xcosθ\) である。
また、点Pから見ると、時計回りに回転させようとしているので、モーメントは”マイナス”。
よって、
\(M_{P}=-F・L=-mg・xcosθ\)
\(M_{P}=-mgxcosθ\)・・答え
剛体のつり合い
剛体のつり合いと、物理基礎の「力のつり合い」は少し違うところに注意が必要だ。
物理基礎では、「1つの物体に、大きさが同じで向きが逆の力が加わった時、物体は静止する(以下の図)」と学んだと思う。[※後述するが、厳密には正しくない]
しかし、この条件を満たしていても、以下の場合は、剛体は静止せずに回転してしまう。
剛体が静止するには、以下の図のように、作用線が一致していることが前提である。
(物理基礎では、これが暗黙のうちに当たり前になっていた。)
では、働く力が2つではなく、3つ、4つと増えていった場合、剛体が静止するための条件はどうなるのか?すべての力の作用線が一致している必要があるのか?
次で詳しく見ていく。
剛体がつり合い条件とは?
働く力が3つ、4つに増えていった時、すべての作用線が一致していなくても、剛体が静止する場合はある。
以下の2条件が同時に成り立つ時、剛体が静止する。
① 剛体に働く力がつり合っている。
② 剛体に働くモーメントがつり合っている。
※モーメントの基準は、自分で自由に決めてよい。
数式として少し具体的に表す。
(わからない場合は、あまり気にせず次の例題を通して理解しよう!)
物体に働く力を\(\overrightarrow{F_{1}}、\overrightarrow{F_{2}}、\overrightarrow{F_{3}}\)とし、ある点を基準とした時のそれぞれのモーメント(正負も含)を、\(M_{1}、M_{2}、M_{3}\)とすると、
② \(M_{1} + M_{2} + M_{3}=0 \)
基本例題
解答:
まず、剛体に働く力を図示する。
①の力のつり合いは、以下のようになる。
\(T=mg+2mg=3mg\)
やったはいいが、実はこの場合、①はやる必要がない(後で分かる)。
剛体のつり合いの時は、②のモーメントのつり合いだけで解ける問題もある。
★以下では、①をやっていない前提で、②のモーメントのつり合いを考える。
まず、どこをモーメントの基準にするかを決める必要がある。
今回の場合だと、A、O、Bが候補である。
その中で、Oを基準にすると、張力 \(T\)のモーメントが0になり、無視することができる。
(力のモーメント \(M=FL\)より、\(L\)が0となるので \(M=0\))
このように、分かっていない力のモーメントが0になるように基準を決めると、楽である。
Aの\(mg\)のモーメントは、Oを基準にすると、反時計回りなので、\(mgx\)。
Bの\(2mg\)は、時計回りなので、\(-2mg(l-x)\)となる。
よって、②のモーメントのつり合いは、
\(mgx-2mg(l-x)=0\)
よって、\(x=\frac{2}{3}l\)・・答え
このように、①力のつり合いを考えなくても、②だけで答えが求まった。
ただし、①力のつり合いが必要な場合もあるので、そこは忘れずに。
物体が回転し始める条件(応用問題)
入試問題では、「物体が回転し始める条件を求めよ。」「倒れないための条件を求めよ。」のような問題が、応用として出題される。
このような文言を見たら、大体が力のモーメント関連の問題であると思いながら、解き進めよう。
解説:
まず、働く力を図示する。
そして、滑り出す直前ということは、静止摩擦 \(F\) が最大静止摩擦になるため、\(F=μN\)となる。
(詳しくは、これで摩擦力は大丈夫!摩擦力の公式と解き方を徹底解説!を参照してみよう!)
よってこの状態で、①力のつり合い と ②モーメントのつり合い を考える。
① 力のつり合い(上下方向)より、\(mg=N\)
力のつり合い(左右方向)より、\(N’=μN=μmg\)
② 点Aの周りのモーメント(以下の図参照)のつり合いより、
(※点Aなら、垂直抗力\(N\)と静止摩擦力\(μN\)のモーメントが無視できる)
\[mg・\frac{l}{2}cosα-μmg・lsinα=0\]
計算すると、
\[\frac{l}{2}cosα-μlsinα=0\\[3mm] \frac{1}{2}cosα-μsinα=0\]
よって、\(μ=\frac{cosα}{2sinα}\)・・答え