スポーツで、「重心」という言葉を聞くことがあると思います
なんとなく物体の中心というイメージをもっているのではないでしょうか?
物理基礎でもあまり説明なく、そのように扱われています。
この記事を読めば、なんとなくになっている「重心」の本質を学ぶことができます。
重心とは
重心とは、物体に働く重力の作用点のことを言う。
物理基礎では、あまり深い説明なしに、重力は物体の中心に働くものとしていた。(以下の図)
しかし、必ずしもそうはならない。
均一な物体の時は重心は物体の中心であるが、不均一な物体はそうとは限らない。
それも、この記事を通して学んでいく(詳細はセクション2-1、2-2へ)。
重心の定義
具体例を通して、重心の定義を紹介する。
以下のように、仮想的に質量 \(m_{1}, m_{2}, m_{3}\)の質点を考え、この3つ全体の重心位置を考える。
\(m_{1}, m_{2}, m_{3}\)は、それぞれ、座標(\(x_{1},y_{1}\))、(\(x_{2},y_{2}\))、(\(x_{3},y_{3}\)) にあるとする。(以下の図)
このとき、重心座標(\(x_{G},y_{G}\))は、以下のようになる。
それぞれの質量を加味した平均を取っているイメージである。
今回は、3つの質点の場合だが、これが4つ、5つ、、と増えていっても、定義式は同じである。
つまり、重心の定義式は以下のようになる。
\[x_{G}=\frac{m_{1}x_{1}+m_{2}x_{2}+・・+m_{n}x_{n}}{m_{1}+m_{2}+・・+m_{n}},\quad y_{G}=\frac{ m_{1}y_{1}+m_{2}y_{2}+・・+m_{n}y_{n}}{ m_{1}+m_{2}+・・+m_{n}}\]
それでは、具体的に計算して、感覚をつかんでみよう。
基本例題
解説:
重心の定義式へ代入して求める。
\[x_{G}=\frac{m_{1}x_{1}+m_{2}x_{2}}{m_{1}+m_{2}}=\frac{m(-x)+2m(x)}{m+2m}\\x_{G}=\frac{x}{3}\]
※座標がマイナスの時でも、マイナスのまま座標として代入する。
重心の注意事項
均一な物体の重心
物理基礎では「均一な物体の重心は物体の中心である」と暗黙のうちに受け入れてきた。
これについて、重心の定義を使って簡単に説明する。
以下のような、質量\(m\)の均一な棒を4等分にした状況を考える。
均一な物体の場合は、質量も4等分されるので、それぞれの質量は\(\displaystyle\frac{m}{4}\)になる。
そして、4つの部分の位置は、以下の図のように \(-2x、-x、x、2x\) とできる。
これらの情報より、重心の座標を求めると、以下ようになる。
\[x_{G}=\frac{\frac{m}{4}(-2x)+\frac{m}{4}(-x)+\frac{m}{4}(x)+ \frac{m}{4}(2x)}{ \frac{m}{4}+\frac{m}{4}+\frac{m}{4}+\frac{m}{4}}\\[12mm] x_{G}=0\]
よって、重心の座標が中心だと分かる。
不均一な物体の重心
一方、不均一な物体の場合だと、そうはいかない。
同じく質量\(m\)の棒を4等分した時に、たとえば、以下のようになったりする。
この場合、さきほどのように重心の座標を計算しても、中心にはならない。
問題を解く際には必ず、物体が均一かどうかを確かめる必要がある。
均一な場合、重心は物体の中心となり、不均一な場合は物体の中心になるとは限らない。
※特に記載がなければ、均一な物体の場合が多い。
【例題】不均一な物体の重心
解説:
不均一な物体の場合は、このように色々な条件が書かれていて、重心を求めさせる問題になることが多い。
左から\(x\)の部分を重心とし、この棒の重さ(※質量ではない)を\(W\)とする。
まず、左端まわりの力のモーメントより(以下の図参照)
\[2Fl-Wx=0\cdot\cdot①\]
次に、右端まわりの力のモーメントより(以下の図参照)
\[W(l-x)-Fl=0\cdot\cdot②\]
①+②×2より、
\[2Fl-Wx+2W(l-x)-2Fl=0\\-Wx+2W(l-x)=0\\-x+2l-2x=0\\x=\frac{2l}{3}\]
よって、重心は左端から\(\displaystyle \frac{2l}{3}\)のところ。・・答え
【応用演習】一部を切り取った物体の重心
重心の応用問題を2つ取り上げるので、頑張って解いてみよう。
最初は難しいかもしれないが、問題の考え方だけでも頭に入れておこう。
長方形から一部切り取った場合
解説:
こういった問題は、以下のように物体をいくつかの部分(重心が考えやすいように、長方形や正方形など)に分け、それぞれの重心から全体の重心を求める方針で行う。
均一な物体なので、この3つの部分の重心 \(G_{1}~G_{3}\)は、以下のように、それぞれの中心になる。
また、一番左(青色)の部分の質量を \(3m\)として、それぞれの質量を求める。
※「3」の意味は後に計算しやすくするため。
青色の部分の面積は \(3l^2\)、真ん中の黄色は \(2l^2\)、右の緑は \(3l^2\)。
均一な物体かつ平面の場合、質量は面積比と一致するので、
質量は以下のように \(3m、2m、3m\) になる。
よって、重心の座標を定義から求めると、
\[(x_{G} ,\, y_{G})=(\frac{3m\cdot \frac{1}{2}l+2m\cdot \frac{3}{2}l+3m\cdot \frac{5}{2}l}{3m+2m+3m} ,\, \frac{3m\cdot \frac{3}{2}l+2m \cdot l+3m\cdot \frac{3}{2}l}{3m+2m+3m})\]
これを計算すると、\((x_{G} ,\, y_{G})=(\displaystyle \frac{3}{2}l,\, \displaystyle \frac{11}{8}l)\)・・答え
円から一部切り取った場合
解説:
この場合、3.1のように、複数の部分に分けて考える方法では難しい。
そこで、もう1つ、この手の一部切り取り問題で使える解法を解説する。
それは、切り取られた部分の質量を”マイナス”として扱う方法である。
つまり、半径 \(r\)の円の質量を\(m\)(重心\(G_{r}\))とすると、
よって、以下の図のように原点Oを取り、重心の座標計算すると、
\[x_{G}=\frac{-m\cdot r+M\cdot R}{-m+M}\]
また、半径 \(r\) の円の面積:半径 \(R\) の面積=\(2πr^2:2πR^2\)=\(r^2:R^2\)。
2つの円の質量比もこれと同じより、\(m:M\)=\(r^2:R^2\) である。
よって、\(m=\displaystyle \frac{r^2}{R^2}M\)であり、\(x_{G}\)の式へ代入すると、
\[x_{G}=\frac{-\displaystyle \frac{r^2}{R^2}M\cdot r+M\cdot R}{-\displaystyle \frac{r^2}{R^2}M+M}\\[15mm]x_{G}=\frac{-\displaystyle \frac{r^2}{R^2}\cdot r+R}{-\displaystyle \frac{r^2}{R^2}+1}\\[15mm]x_{G}=\frac{R^3-r^3}{R^2-r^2}\]
よって、\(G=\)上記の図のOから右に\(\displaystyle\frac{R^3-r^3}{R^2-r^2}\)のところ・・答え
※この”マイナス質量”方法は、3.1の長方形の場合でも使える。